Pが着目したのは、怒った顔とおびえた顔を見たときの反応だった。
正常な脳は、こうした情報を複雑な連鎖反応で処理するのだが、そこで駆りだされるのが、馬桃と前頭前野である。
うつ病の子は、同じうつ病のおとなより怒りっぽく、いらいらしやすい。
しかも、親とのやりとりが過熱したときに症状が出ることが多い。
Pが突きとめようとしているのは、次のようなことだ。
身体が成熟していく過程で、怒った顔に対する脳の反応は変化するのか?そのときに使う脳の場所は、成人とは別のところなのか?そして、うつ病や不安障害の徴候が出ているティーンエイジャーの場合は、そもそも怒った表情を処理する場所が健康な子どもとちがうのか、それとも場所は同じで処理の方法が異なるのか?Pは子どもたちの脳をスキャンするだけでなく、エストロゲンとアンドロゲン、それにストレスホルモンのコルチゾールも測定した(女の子はなぜか身体成熟後のほうが、強いストレスを受けたときに精神疾患の症状が出やすいのだという)。
ただでさえとらえにくいこれらホルモンの様子は、問題をかかえた子とそうでない子でちがってくるのか。
そしてホルモン濃度の差は、脳内の活動のちがいと一致しているのか。
10代のうつ病や不安障害については、すでにある程度わかっている。
うつ病の子は、当然のことながらものごとの悪い面にばかり目を向ける。
テストでAを取ったことをほめると、まぐれだと答えるだろう。
賞品、勝利といった前向きな単語と、ボートなどの中立的な単語、それから否定的な単語を記憶させると、うつ病の子は否定的な言葉をよく覚える。
怒りに燃えたグレン・クロースの写真と、楽しそうなK・Lの写真を見せたら、覚えているのはグレン・クロースのほうだ。
不安にさいなまれている子どもたちにも、特定のパターンが見られる。
不安障害は、視床下部・下垂体軸(HPA軸)の調整がきかなくなって、おそらく敏感になりすぎるために起こると考えられる。
ストレスを引きおこす刺激、たとえば数学の問題と海体育館で誰かに言われた無遠慮な一言。
ごみを出しなさいという親の指示など、を受けると、ホルモンがとめどなく分泌され、ルチゾールも血液中に流れこむ。
その結果身体が「戦うか、逃げるか」という反応を起こし、手が汗ばんだりす不安障害の子どもは、危険を示す徴候にもやたらと敏感である。
群衆のなかに、怒りの表情を浮かべた人がひとり混じっている映像を見せると、不安が強い子ほど怒った人を見つけるのが早い。
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